卵子凍結ってなんですか?
卵巣の中にある卵子を、身体に針を刺して取り出すことを採卵(※1)といいます。取り出した卵子を凍結保存することが卵子凍結です。卵子凍結により将来の妊娠の可能性を高めることが期待されます。しかし、凍結した卵子を使用して確実に妊娠できるわけではなく(※2)、卵子凍結は将来の妊娠を保証するものではありません。
 
(※1)採卵をするためには、通常一月に1個だけ成熟・排卵する卵子を複数個育てるために1~2週間のホルモン剤の自己注射や内服をおこないます。また、1回採卵するためには1か月間に3~5回程度の通院が必要になります。ホルモン剤の影響で体調が悪くなる場合や、卵巣が腫れて腹水がたまるなどの副作用が生じることが あります。急な受診や入院が必要になる場合もあり、一定の負担がある技術です。
 
(※2)凍結卵子を融解(解凍すること)したもののうち 、精子との受精ができる状態になる確率は78%、受精して子宮に移植できる状態になる確率が72%、生児を得ることができる確率が28%(年齢を考慮した解析では、40歳以上の生児獲得率は19%、35歳以下では52%)との報告もあります。
Hirsch A, et al. Planned oocyte cryopreservation: a systematic review and meta-regression analysis. Hum Reprod Update. 30:558-68, 2024

【がん患者等の妊孕性温存療法による卵子凍結について】

若くしてがんやその他の病気にかかった時、治療によっては卵巣の機能が著しく低下することがあります。病気の治療により卵巣機能の低下が懸念される場合に、将来の妊娠・出産の可能性を残すことを目的として、治療前に卵子を凍結する妊孕性温存療法を、関係学会等では「医学的適応による」卵子凍結と呼んでいます。
この技術は「妊孕性温存療法」とも呼ばれ、関係学会の診療ガイドラインにおいて、妊孕性温存に関する情報提供をおこなうことが推奨されています。がん診療ガイドライン | 日本癌治療学会 (jsco-cpg.jp)保険の適応はありませんが、厚生労働省の研究促進事業(※3)で一定の要件のもと、治療に要した費用に対する助成を受けることも可能です。小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業 |厚生労働省
 
(※3)厚生労働省の事業では、がん治療等によって精巣の機能が低下する可能性のある男性に対しても、助成を行っています。

【上記以外の方の卵子凍結について】

病気の治療が原因で、卵巣機能低下が懸念される場合以外に、疾患等により卵巣機能が早期に低下する場合や、「いつか子どもを持ちたいけれど、いまは仕事を優先したい」「いつか子どもを持ちたいけれど、いまはパートナーがいない」など、いますぐ妊娠を望まない健康な女性が、将来の妊娠に備えて若いうちに卵子凍結を実施する場合があります。こうした卵子凍結について、関係する学会である日本産科婦人科学会は、若いうちに卵子を凍結することで、凍結した時点での年齢の妊娠率を維持することが期待されますが、その実施に対しては、正確な情報提供のもとに、自身にとって必要な医療かどうかよく検討したうえで決定することが重要であるとしています。

凍結卵子を使用して高齢で妊娠・出産する場合には、「妊娠合併症」の発症率が高くなり、妊娠中に母体に生命の危機が及ぶ恐れもあります。また、採卵を実施することに一定の負担があることに加え、凍結卵子の使用により妊娠成立までたどり着く可能性は不確実であり、将来の妊娠・出産を約束するものではありません。
このため、卵子凍結については、そのメリット、デメリットを慎重に考えることが必要です。大切なのは、卵子凍結をゴールと考えるのではなく、妊娠・出産も含めたライフプランの一部として卵子凍結を検討するということです。日本産科婦人科学会により、ポスターや動画が作成されていますので、参考にしてみてください。

*日本産科婦人科学会は、健康ではあるものの今は妊娠を選択しない女性が行う卵子凍結を「ノンメディカルな卵子凍結」としています。
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/egg-freezing_Poster.pdf